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JFPSP自己心理学協会訓練研究所連携教員で、研究グループ正会員の岡秀樹氏翻訳による「コフートを読む」の著者、アレン・M・シーゲル博士より手記を頂きました。
この手記は、2018年10月、ウィーンで行われたIAPSP国際自己心理学会本大会の場で、協会代表理事富樫公一が依頼をしたものです。博士は日本語の翻訳版が出ていることを存じ上げなかったとのことで、富樫より「とても良い書籍であり、多くの日本の読者に手に取っていただきたいので、コメントを寄せていただきたい」とお伝えしたことにご快諾いただき、本手記をご執筆いただきました。日本語としても美しく、理解しやすい本書です。みなさまぜひご一読ください。

日本のみなさん、こんにちは。

私の本についてお話をさせていただけることを嬉しく思っています。最初に皆さんにお話ししたいのは、本書の出版社のRoutledge社がハインツ・コフートの業績について書いてほしいと依頼した相手は、私ではなく、アーネスト・ウルフだったということです。Routledge社は、本書を「現代の精神療法を作った人たち」と題したシリーズの一つとして考えていました。しかし、アニーは70代です。彼は長い間自己心理学のために数多くの仕事をしてきて、もう自分は十分にそういった仕事をしたと思ったのでしょう。私がやってみないか、と彼が声をかけてくれたのです。私には何よりもうれしく、光栄なことでした。も・ち・ろ・ん!!! やります! という感じです。彼は、最高の贈り物を私にくれました。

しかし正直なところ、これは怖い仕事でもありました。私なんかにこんな大きな課題をこなせるのか? 私はだんだんおびえるようになりました。私はまずコフートの著作をすべて読みました。すると、自分がどうやって本をまとめたらよいのか見えてきました。突然はっきりとした形で見えたのです。歴史的なアプローチで、コフートの仕事の進化と発展を語ればいいのだと。そうしたら、本をまとめるのは簡単になりました。

私にとってもう一つ重要なことは、自分もコフートの分析を受けていたことです。私もコフートと同じシカゴに住んでいました。皆さんもよくご存じのように、コフートの本は読むのも理解するのも簡単ではありません。しかし私は、彼の本を読むとコフートの声が聞こえるのです。私には、まるで彼が自分に話しかけてくれるように聞こえるのです。彼の本を読むと、私は彼の声を再び聴き、彼との時間を過ごすことができるのです。だから、私にとって本書を書くということは、私が彼を取り戻すことでもありました。

もう一つ、私が教えることが好きだったこともあるでしょう。本書を書く作業は、私にとっても、なんだかややこしくて、読めない本を、わかりやすく読みやすい本にするよい機会でもありました。

本書には、コフートと他の分析家に関する個人的な逸話も書かれています。他の分析家というのは、コフートの才能を妬み、彼がフロイトの考えに新たなものを付け加えようとしたり、のちにはそれを書き換えてしまおうとしたりしたことに怒っていた当時の分析家たちのことです。私が、コフートや彼の考え、そして、その反対勢力についての個人的な逸話を知り、話すことができたのは、私がシカゴにいて、他の分析家の彼への羨望や、彼に対する憎しみを作り出す彼らの報復に対するコフートの反応を、近くから見ることができたからです。

そうした個人的逸話とコフートの考えは、関係しあっています。それは、複雑に編み込まれた織物の二つの赤い糸のようなものです。それは非常に明確で重要なことでしたので、私はあえて、この本の中にコフートの理論についての個人的逸話を含めました。

私の話がこの本についての皆さんの興味を掻き立て、ぜひ本書を読んでみたいと思ってもらえるような機会になればと思っています。この本を読んでいただければ、きっと、人としてのコフートと理論家としてのコフート、その両方を知ってもらうことができるでしょう。

皆さんが、新たな理論的な旅を楽しめることを願っています。


アレン・シーゲル
2018年10月21日
(翻訳:富樫公一)


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